2011年7月29日

雪は降ってない

2011年7月29日(金曜日)

 

隣室から母の呼ぶ声がした。畳の部屋で大きな卓を前に母が座っている。
卓上に白い紙が置かれ、母は黙って筆を執っていた。

 

庭にに囲まれた部屋の戸は開け放たれて緑の光の中に母の影が浮かぶ。
何か用、と訊いたが返事はなかった。

黙っているなんてあり得ない、どうしたの変だよ、と不安にかられて私は言う。
問いは無視され母の姿がだんだんと薄くなっていく。

 

私は人を呼びに隣室へ飛び出したが、すぐに引き返した。
そこに人の姿はなく卓上に数珠が一つ置かれていた。

 

いたたまれずに庭に出ると曇り空が木々を見下ろしていた。

 

そう言えば父も妹も近しい者たちもみな急に消えた。

 
いずれも別離というより失踪ではないのか。

母もまた訳と行方を探さなければならない。 

 

観音 

 さて、以上は数日前の明け方に見た夢です。
7月3日に外出をした母。しかしこのところ反応が落ち、点滴一本で何も食べず、はー、と言っては目覚めてまた眠るようになりました。昨日、隣の部屋の窓を開けると少しだけ表が見えました。

「雪、降ってないの」

「大丈夫降ってない」

聞いた母が安心したようにまた目をつむりました。

佐賀県古枝村の南国から越後に一人来て、ある種よそ者として生きた65年。短い言葉に母の心情がにじんでいました。

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