TASTING

2011年11月21日(月曜日)

昨日のノートに旧友がワインを選んだことを書いた。私などには遠い領域だが、彼のワイン選びは現実的な幸不幸の問題に見える。

 

このたびの食事の10日ほど前、「店を決めたからホームページからメニューを見て選んでみて」とメールが来ていた。コースではなくアラカルトにしようというこだわりも伝えられた。

 

私はホームページを見て牡蛎は必須、肉料理を一品と返事した。昨今肉がきつく感じられるが、ワインは自分のおごりにしたいという、彼の好みを考えてそうした。

 

そもそも彼の人にあって年に一回の食事はただ一点、いかにワインを選びメインに合わせるかにあろう。予め私たちに何が食べたいのかを聞いた時点で、あれかこれか、幸福な思案がはじまるにちがいない。

 

さて当日自分にはほぼ決めていたワインがあったという。ソムリエとの前段はそれがどんな状態で店にあるかの確認だったのか。幾分若いソムリエは一度下がると戻って来て、またひそひそと始まるのだった。

 

私たちはメインを肉でと伝えていたが、何の肉か決まっていなかった。メニューを見ながら5人そろって鴨を選び彼も同意した。ワイン選びは流動する現場のスリルも楽しむように写った。コースではなく、アラカルトを提案していたのもうなずける。

 

鴨ということでソムリエとの間になにやら事案が生じている模様だった。「もうちょっと待ってて、今決まるから」、という彼は幾分興奮していた。ソムリエの助言を容れて冒険をするらしい。

 

幸福のワインは決まった。ある種地味ながら穏やかな存在感を漂わすワインが登場した。しかし雑談と食前酒で出来上がりそうな私たちの無知は、もっぱら鴨や佐渡のいちじくなどを賞賛するのだった。

 

さて翌日家に帰ると以下のメールが入っていた。珍しく長文だった。昨日のワインC・C・Bの感想が述べられ、何ともいえない思いがありました、とあった。彼自身ほろ苦かった様子がうかがえる。

 

“開高健が良い酒ほど水っぽくなっていく事を書いています”と書かれ、以下のように続いた。

●当日、ソムリエの意見を取り入れて決めました。気に入った映画「サイドウェイ」の思いがあったから、一度飲んでみたかった。

 サイドウェイのDVD送ります、奥さんと観てください。

映画の中で恋人になる女性のこんな台詞があります。

“ ワインは日毎に熟成して複雑になっていく

ピークを迎える日まで

ピークを境にワインはゆっくり坂を下り始める

そんな味わいも捨てがたいわ”

 素敵なヒロインの言葉でした。 でも、鴨にはC・M・R(彼が想定して臨んだワイン)がよかったかな。

 

人それぞれ向きは違う。彼の味への探求は続く。若い時に様々な香辛料を蒐集し自分でカレーを作っていた。何人かで食事をすれば、お互い違うものを頼もうや、と言う。出てくる他人の料理を「ちょっと」と言ってはつまむのだった。ワインも長い探求の延長線上にあるのだろう。

 

年と共に夢見る人の向きはますます貴重になる。

 

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