成長途上の樹下美術館。

2017年2月2日(木曜日)

樹下美術館は冬期休館中ですが、3月15日開館に向け
て鋭意準備を進めているところです。
美術館に最も必要なものは良き収蔵品。幸いな事に、開
館後も重要と考えられる作品が少しずつだが毎年追加
れてきました。

そんな折、今年になって思いもかけぬ齋藤三郎の良い作
品と次々に出会いました。
まず新年早々1月3日は染附竹文水指(そめつけたけもん
みずさし)でした。

1
↑手の込んだ竹笹文様の水指。 口径12,0×高さ17,2㎝
動きのある竹が呉須の藍一色で生き生きと描かれた染附作
品。
ぐいとした竹の線、リズミカルな笹の緩急がやや小ぶりな器
一面を埋め尽くし、風の音さえ聞こえそうです。

2
↑上掲作品の底署名。文字が太く力感があり昭和30年代
から40年にかかる署名ではないかと推定しました。

3
↑「色絵椿文鉢」。1月中旬の出会い。  幅21,2 ×高さ8,2㎝。
陶齋の椿は時代ごとに変化をします。私が特に好き
なのは伸びやかな花びらの昭和20年代中、後半のもので
す。
この椿はその前、花の描き方に試行錯誤をしていた頃では
ないかと思われました。
当時陶齋は時々我が家を尋ねましたが、どんな椿が一番良
いでしょう、とよく父と話していました(私は氏がこられると、
出来るだけ両親のそばで話を聞いていました)。
この作品の花、葉、枝とも色彩はその後のものよりやや地
味目ですが、深みがあり動きも良く花の喜びが伝わります。
さらに鉄釉による縁取りがきりっと全体を引き締めています。

4
↑上掲作品の四隅に黄色を配し緑で枠どりをした署名。
細い筆先が縦横に走る高田時代初期のサイン。

5
↑「赤地搔き落としあざみ文瓶」 高さ13,7×口径7,0㎝
魅力的で小ぶりなこの器はつい先日やってきました。

6
↑作品の署名。やや単純化されてますが、速筆で昭
和20年代後半と推定された。

この小さな器には物語があります。
父の開業から長く診療所を手伝って下さった人でYさ
んがいました。
仕事は迅速で正確、字は美しく応対ははきはきとして
明るく長く私たちも親しみました。

ご都合によりお止めになってから相当経ちますが、ワ
クチンの時など今でもお元気な顔を出されます。
先日の来院時“自分が止める時に大先生から頂いた
齋藤さんの壺があります。自分も年だし、先生が美術
館をされたのでお返ししたいと思っていました”と仰っ
た。

父は色々な方に陶齋作品を上げていた。
一緒にお茶をのみ、この茶碗いいですね、などと言
う人あれば、「分かるかね、欲しければあげるよ」と
新聞紙に包んで渡すのだった。

ところで今回Yさんが持参された作品を見て驚いた。
小器ながら絶品である。
まず赤い搔き落としのあざみは初めてだった。
搔き落としの鮮やかな手さばき、花の風情、余白の妙、
引き締まったフォルム、心に残る赤、漂う上品さ、きれ
いな焼き上がり、、、。
父はよほどYさんに深い思いがあったのだろう。

Yさん、こんなに良い作品を本当に有り難うございま
す、一生懸命大切に致します。

「次は何」
これは齋藤三郎さんの作品を待つ私たちの気持ちだ
った。
それは最早愛情に似ていた。
そして次に見る作品は決して期待を裏切ることなく皆
を驚かせ、喜ばせた。

没後35年を経た現在もまだ「次は何」、齋藤三郎さん
への愛情(ないし病)は続いているのです。

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