今年の展示から1・「カリカチュア風な倉石隆」 スプリングソナタのSPレコード。 

2017年3月15日(水曜日)

今年の開館を迎えた本日、寒い一日でしたがおな
じみの方初めての方々にご来館頂き有り難うござ
いました。

開館に際し展示作品について簡単ですが説明を試
みたいと思います。

2017年絵画展示「カリカチュア風な倉石隆」

倉石隆は人物(人間)を描くことをライフワークとし
ました。
人間は生き物として共通部分をベースに、生まれ持
った個性と環境、経験など個人的な要素が加わった
複雑な存在です。
さらに人間を描く事は自分を描くことにもなろうと思わ
れ、いっそう困難もあったことでしょう。
氏は具象の画家でしたが、時に風刺画や戯画風の
表現で描きました。これらは一種カリカチュアと称さ
れる範疇でありましょう。
このたびは氏の作品からそのような雰囲気を有する
ものを選んで架けました。

●それでは会場左から

54
「(熱情)」 1987年 18,0×13,8㎝
身体の不自由を強い意思と感情が支えているお年
寄りを描いた小さな作品です。宝くじ売り場にいた人
に惹かれて描いたようだと、夫人からお聞きしました。
エゴン・シーレ風な荒々しいタッチで素早く描かれて
います。

E
「男の像」 1955-1960年 90,9×72,7㎝
大きな身体にごく小さな頭部が乗っています。顔は
悶々としていらだち、身体と手を持てあましている風
です。
上京したある期間、全く描けない時期があったそう
ですが、そんな日々の焦躁を描いたと思われます。
しかし薄い黄色にそこはかとない希望が感じられま
す。事実このように筆を執り始めたのですから。

19
「めし」 1953年 33,0×24,4㎝
前者よりも前の小さな作品です。
魚の骨だけの皿が粗末な食卓に乗っています。茶碗
とハシを差し出した男が「もっと!」と叫んでいます。
1950年に上京した倉石の当初、部屋には机の代わり
にリンゴ箱が一つという時代が続いたそうです。心身
ともに飢えていたに違いありまません。
いらいらする赤の下地を鎮めるようにグレーが乗せら
れています。

22●
「(人生)」 1957年 90,9×72,7㎝
やや大きな作品ですが、どんな事を描いているのでし
ょう。首から何かを下げた売り子のようにも見えます。
野球が好きだったという氏が球場でこのような人を見
かけたとも考えられます。
懸命に生きるほどに人生は時として醜さや滑稽さが滲
むのを経験します。
氏は大変にハンサムでしたが、内省の人らしく自らの
側面をこの人物に投影したように思われます。
本日、この絵がとても気に入った、欲しい、と仰ったお
客様がいました。

 

次回は倉石隆の残り三点を掲載してみようと思います。
※題名の( )は、1995年新潟市美術館の展覧会の際
に付けられた仮のタイトルです。

 

本日ベートーベンのヴァイオリンソナタ5番“スプリング
ソナタ”のSPをお客様が持参された。
蓄音機に乗せるとリリー・クラウスのピアノが明るくリー
ドしてカフェに流れ、居あわせたお客様とひと時を過ごし
た。
外が寒い名ばかりの早春の庭を見ながら聴いたレコ-ド
はとても優しかった。
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