茶道裏千家・坐忘斎お家元にお茶を差し上げた日。

2017年4月11日(火曜日)

去る4月9日夕刻新潟市内で、ある例会が
持たれ茶道裏千家、坐忘斎お家元のご講
話があった。
先立つ午後、旧齋藤家別邸のお茶室「松
鼓庵・しょうこあん」でお呈茶が予定され、
お家元をお正客に迎えて15:30から不肖私
が薄茶を差し上げる役となっていた。

今冬来ほぼ毎日稽古をし、妻の茶道師範の
元へ伺ってお点前を見てもらい、イメージトレ
ーニングや問答も仮想して練習を試みた。

当初80%もの降水確率だったお天気は日が
近づくにつれ下がってきて雨は避けられた。

当日朝8時、茶道具類のほか布類、着物履き
物、水、筆記用具、昼食など車を一杯にして
120キロ先の新潟市へ向かった。

1
新潟市は結城宗由先生のお社中の方たちが
すでに茶室内外のお掃除を始められていた。

茶室は広大な築山の高所にある。踏み石を伝
い流れの音を聴き、椿の落花を横目に皆で道
具を運び上げた。

道具の器は樹下美術館常設展示の陶芸家、
故齋藤三郎(陶齋)の作品を出来るだけ用い
た。
昨年逝去された会員への追悼でもあり趣旨を
生かせれば、と配慮も試みた。。

2
上越市から有澤宗香先生のお社中も加わり
仕度を進めて行く。八畳間に総勢14名のお
客様の予定。

間もなく京都の裏千家本部から業躰(ぎょう
てい:茶道全般にわたり仕度、所作作法、流れ
など助言指導される方)さんの幹部が来邸され
た。
水屋の配置、掛け軸の高さ、床のあしらい、炉
縁(ろぶち)とお釜の高さ、水指の水位の調整、
御菓子の盛り方ほか沢山のことで確認とご助
言を頂いた。
(例えばそれまでの水指の水位が低く、柄杓で
水を掬う場合、角度がつき過ぎ杓の尻が棚の
天板に当たりそうになり不自然な動きを免れな
かった等々)

これらの是正は一見窮屈なことに思われるが、
実は正反対、物や動作が少しでも自然で美しく
あり、しかも真に開放された時間を過ごすため
に要所に原理的な寸法とその応用がが存在す
るらしいということの現れだった。
さらにそれらを知らしめた茶の祖利休について、
あらためて凄さを思った。
(この部分10行は4月15日に追加致しました)

ダークスーツできびきびと動かれる二人の業
躾さんはTVの茶道番組で拝見している方々。.
本席が始まった後も裏方として私たちのスタッ
フと一緒に水屋仕事や進行を守備して下さった。

3’

3
↑待合床に掛けた棟方志功「米大舟頌べいだい
しゅうしょう」。棟方氏と陶齋は若い頃から親交が
あった。
江戸時代、私たちの地元を襲った大飢饉を米を
回して救ってくれた酒田の豪商の舟を喜び、始ま
ったという歌と踊りを今に伝える「米大舟」。
逝去された酒造会社社長であられた会員への
手向けとして米の舟歌の小品を掛けさせて頂いた。

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上床は文箱が普通だと思われるが、持ち会わせ
が無いので滝田項一作鳥の染め付けの陶箱を飾
った。
氏は富本憲吉門下で陶齋の兄弟弟子の一人に
当たる人。追悼の趣旨に沿い、去った人のイメー
ジを思い、鳥の図柄を選んだ。

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床に格調高く良寛の「かたみとて」が掛った本席。
お褒め頂いた陶齋の手桶花生けに利休梅、ヒメ
コブシとクリスマスローズが入った。

2.
↑陶齋の染め付け民家香合。

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↑水指は陶齋の掻き落とし牡丹文。薄器(薄茶を
入れる器)も陶齋の赤絵どくだみ文小壺を用い、風
炉先屏風は薬師寺、薬師三尊像の台座から取った
拓本龍の図、そして数少ない我が棚から方円卓を用
いた。

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裏千家淡交会から記者さん。

7
仕度が出来上がったお昼に妻が用意した奈良の
桜葉寿司といちご。

6
恥ずかしながら本番前のおさらい。
釜は治良兵衞の古い平丸釜。
蓋置きは竹で裏千家十三代お家元、円能齋の
お手作り、銘「春風」。

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↑茶道苦難の時代にご苦労された円能齋。
その人の春風にはひとしお励まされる。

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業躰さんのご指導で何とか席が整って集合写真。

9
↑席入りが近づく頃合いを計って美豆伎庵(みずき
あん)さんからお菓子「花吉野」が届く。
菓子と器との取り合わせを見ながら業躰さんに盛り
付けを教わる。
懐紙を置き、人数に合わせた楊枝が手品のように
さっと扇形に並ぶ。
春の野を彷彿とさせる御菓子は格段の優しさで好評
を博した。

16●●
↑比較的地味色で始まっている道具類の色彩を強
めようと二つ目の菓子器に今年入ったばかりである
陶齋の色絵椿文の鉢を用いた。

仕度から5時間が過ぎた頃、お家元が待合に入ら
れたと知らされた。
練習どおり茶道口ふすま前に座して息をはき、呼吸
を整えて待った。
誰かが「さあ」と言って促した。
茶道口を開け茶巾と茶筅茶杓を仕組んだ主茶碗を
左手に乗せ右手を添えて手前座に進んだ。

上座に圧倒され緊張は隠せない。
お家元は点前の頃合いを見て、クリスマスローズの
事を口にされた。
こちらのクリスマスローズは京都のよりも大きいです
ね、京都のはこんなにちっちゃいですよ、と指で輪を
作って笑顔を見せられた。
難しい掛け軸やお道具類ではなく、まず花から切り出
され緊張の座をほぐして下さる。

10
お家元に服して頂いた鈴木秀昭さんの「色絵金銀
彩幾何宇宙茶碗」.。
曼荼羅そのものでもあろう大きな器、精一杯大服に
して心込めて茶筅を振った。
何度も迷ったが、この茶碗に決めて良かった。
お家元が眼を丸くされ、場に光が射すようだった。
大きな音を鳴らされ見事に茶を吸い切られた。
後に茶碗についてオリエントの風合いを仰った。
不肖私も鈴木さんと出会った15年前に全く同じく感
じた。
オリエント学はお家元の義父・故三笠宮様のご専門
であり、何とも適った方からのご指摘に感銘を受け
た。

お次客、三客様はお家元のご親族が座られている。

11
↑お次客様は甥御さんの伊住公一郎様。
塚本治彦さんの織部でお飲み頂き、とても良いお
茶碗でしたとお褒め頂いた。

12
↑お従兄弟様の大谷裕巳様は新潟県の作家解良
正敏さんの黒釉面取り三彩茶碗で。
可愛く魅力的と好評され同県人として嬉しかった。

水屋から差し出される次客、三客様の茶碗は既に
茶が盛られしかも碗が温められていた。
私は湯を注いで茶筅を振るだけで良かった。
三手、四手と手間が省け、それだけお家元と相対
できる余裕が生まれる。裏方に回った業躰さんの
心遣いが沁みた。

古くて気がもめたが高木治良兵衞の釜をお褒め
頂き鐶衝きの型をお尋ねすると膝を進めて寄って
くださり、「遠山」ですね」と教えて頂いた。

漢字で書かれた良寛の和歌の読みをお尋ねされ
たので、精一杯声を張り上げてお答えした。
待合の棟方の米大舟もお尋ね頂いた。
描かれた若い女性は、棟方が1950年代当地で米
大舟の踊りを見た際、踊る娘さんの印象を描いた
ようですとご説明した。

上床の小襖を指して、トクサが描かれていますね。
と仰った。
私はその事に気づかず、はっとした。
上の甲板に鳥の陶箱に置かれていますが、その
鳥がトクサの上を飛んでいるようですよ、と仰った。
ああ樹下美術館にもトクサの道があり、春の鳥が
飛び交い始めた。
狭い茶室に居ながら自然界へとイマジネーション
を広げようとされる。

途中で一、二度夢心地になってしまったり、我に返
ったりした。
茶を点てながら、お茶を運び出される方達の足袋
のすれ音が聞こえ、みな一生懸命なのがひしひし
と伝わる。
お茶碗は家にあるもの皆お出しした。
お互いの器をやりとりしたり言葉を交わすのが聞こ
える。

席が終わりに掛かる頃、突然茶室が停電した。
たまたま母屋の方のブレーカーが落ちたらしい。
何という事か、暗い室内の二方の障子が夕暮れの
陽にうっすらと赤く染まっている。
「夜咄(よばなし)のようですね」
「というより夕ざりでしょうね、いいじゃないですか、
昔の茶室はこんな明るさだったんでしょうね」とお
家元がフォローされ、ざわついた座が和んだ。

考えもしなかったハップニングもあり、いつしか終
了が近づいた。
お仕舞いください、とお家元。
名残惜しゅうございますが、お仕舞いに致します、
とお応えした。

仕舞手順を終えて茶道口に戻り、挨拶すると胸が
熱くなりお家元に手を合わせたくなった。
終わって一同そろって集合写真。
「新鮮で大変楽しかった、それぞれ異なるお茶碗の
変化も良かったですね」とねぎらいを受けた。

短い時間の中、お正客様によって生み出された和
みの一体感、一座建立(いちざこんりゅう)。
それはまた時計などでは計り得ない貴重な一期一
会のひと時だったのだと実感した。

私の拙点前は論外であり、この日の機会を与えて下
さり諸般に心砕かれた幹事様、世話人様に深く感謝
し、親身になってご支援頂いたお二人の師範と一門
のお弟子さん達、松鼓庵の皆様、そして当日の土台
骨を固く組んで頂いたお二人の業躰さん幹部、暖かく
見守って頂いたお家元様はじめ裏千家本部の方々に
心からの感謝を禁じ得ません。

呈茶の後場所を移してお家元のご講話があった。
伝統とその有り難み、がテーマだった。
有り難さの明快な解釈とそれを受け止める感性を磨
くことの大切さを話された。
私たちだけで聴くのが勿体なく感じた。

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ご講話の後の懇親で柳都の芸妓衆による見事な相川
音頭。

泊まりのつもりだったが、明朝の仕事や気になる患者
さんがいたのでホテルで仮眠の後、夜中の北陸道で
帰った。
道中冷えて霧がかかり、何か別次元の世界に居る錯
覚を払拭出来なかった。

昭和62年から裏千家茶道をお導き頂き、常に励まして
頂いた亡き渡辺宗好先生を思わずにはいられない。

大変長くなりました。

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