倉石隆の「杉の林」

2009年12月19日(土曜日)

 

杉林 
   倉石隆「杉の林」 65,2×90,9㎝ 1965~75年 

 

 現在、樹下美術館で展示されている倉石隆作品に「杉の林」があります。今日は少し風変わりなこの絵のことに触れさせていただきました。

 

 軽く手を広げたような大きさのキャンバスに描かれたのは7本の杉です。風景画にしては山もなければ家もない心象風な作品だと思います。油彩ながら、松林図を描いた長谷川等伯の墨絵を思い起こさせます。

 さて杉は倉石にとってやや特別なもののようでした。氏の故郷新潟県高田(現上越市)には、寺町をはじめ宅地や神社など至る所に大きな杉があります。しかし高田時代の倉石は、杉は重々しく陰気だと言って嫌がっていた、と奥様からお聞きしました。

 

 当作品の制作年代は1965~75年、故郷高田を離れて15~25年が経っています。描かれた杉に重圧は無く、枯れ枝が飄々と絡みあう頼りなげな樹として描かれました。全体におだやかな白が薄くかけられ、どこか画面を愛おしむような感触が伝わります。

 もしかしたらこの杉は倉石自身かと思いました。内外に複雑な枝を絡ませたり回転させながら重心をとり、頼りなげであっても真っ直ぐ立とうとする(あるいは立っていなければならない)存在です。一方作業として、素早い類円とこすりつけたような濃い葉の集まりが妙味として作者を惹き付けているようでもあります。

 

 「ボクは下手だなあ」、は倉石の口癖だったそうです。長く忌み嫌った故郷の重いモチーフを敢えて選び、向き合ってみる。その時、何らかの開放があって淡々たる、あるいは楽しむような心境が去来したのかもしれません。作品は倉石らしいモノクロームで、一気に筆が進んでいるように感じられます。

 

 倉石の作品には時として謎めいたものがあります。杉林もその一つでしょう。本日昼、雪中の樹下美術館で立ち止まった時、あらためて作家における年月の作用を思ってみた次第です。

 「杉林」は、陶芸ホールの一番奥で、陶齋の華やかな色絵磁器と絶妙な相互作用を醸成しています。

  暖冬という大方の予想を裏切って当地は豪雪模様です。降りしきる中、三人のお客様が見えました。突撃の勇気とご厚情に胸熱くなりました。

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