樹下だより
齋藤さんと我が家 4 餃子
前回の齋藤さんの湯飲みに続いて、今回は我が家への訪問を記したい。
多忙な齋藤さんだったが、時には我が家を訪ねてこられた。両親が上機嫌なのが何よりで、私たち子どももよく同席した。先生の声はよく響き、世の大家の話題から古美術のこと、地域の話など快活に語られた。万事自然で、座に笑いが絶えず、子どもでも楽しかった。
ひもとけば氏の18才からの10年余の生活は関西だ。しかも近藤悠三から富本憲吉へと、きら星たちへの師事だった。両師との出会いは齋藤さんの才能を開花させて余りある幸運だったにちがいない。さらにサントリー創業者鳥井信治郎氏の庇護で、いっそう文化への磨きが掛ったことと思う。
そんな齋藤さんが戦後、新潟の高田(現上越市)で仕事を始められた。作品、人柄とも人気があり、あっという間に内外の人々を魅了して、多彩な交流が生まれた。あるときなどは棟方志功氏を伴って我が家へ来られ、非常に驚いたことがあった。
齋藤さんは食通としても知られていた。その氏が当家で特に好んだのが餃子だった。昭和30年代なか頃まで、当地で餃子は珍しかった。満州仕込みの母の餃子は、皮が厚く具と油がたっぷりで美味しかった。応召で大陸へと渡られた齋藤さんは、ことのほか母の餃子を喜んだ。
何度かお子さんと甥子さんたちを引き連れて、賑やかに来られたこともある。私は餃子作りが出来たので、母と並んで台所に立った。ある時などは、出しても出しても皿は空となり、止めどなく焼き続けた記憶がある。
満腹のあとは子ども同士で海へ行った。高田はやや内陸なのでお子たちは海を喜ばれた。一行を後ろから写した古い写真があるが、懐かしい。二代陶齋の尚明氏とは時々お会いするが、そのたびに餃子のことは忘れられないと仰る。
昭和34、5年。大潟町の浜、帝国石油の人工島桟橋で。
齋藤さんと我が家 3 湯飲み
前回では父が我が家へ運んだ齋藤作品の多様さを記させて頂いた。ところで齋藤さんの作品で、最も多く作られたのは湯飲みだろう。小さくとも一器一器に才気と暖かさが現れ、齋藤世界そのものだ。ここでは形状について書いてみたい。
齋藤さんの湯飲みの形状はおよそ二つに分けられる。ずんどうに近い筒型と、胴がふくらんだ太鼓型の二種である。筒型には高台が無く、中を削ってあるだけ。太鼓型は高台があり口辺(こうへん)が反る端反(はぞり)りが加えられている。前者の多くは磁器が主体であり、後者はほとんどが陶器だ。
形のほかに絵付けの違いがあった。筒型は呉須(藍色顔料)による染め付けはじめ色絵も上品の気があった。一方、太鼓型は灰釉や鉄また辰砂(しんしゃ)を地色として、呉須や鉄でラフな文様が刺されていた。
このような形状の違いは、番茶向きと煎茶向きへの配慮だったと思われる。煎茶は、温度が低く量は少な目だ。左手に乗せ右手で軽く握って飲む茶となる。番茶に比べて上格だから絵付けも染め付けなど細筆が合っている。
一方番茶はくだけた飲みものであり、熱くて分量も多い。気楽に片手で握ってぐっと飲む。端反りがあるため一口で多く飲め、ここを持てば熱も避けられる。そして高台だが、番茶の高熱が卓の塗りなどに伝わらぬよう配慮されたのかもしれない。あるいは器に豪快さを与え番茶の趣を高めたのか。こうなると両者の違いを、齋藤さんに聞いてみたくなる。想像だが器を手に、立派な鼻に響く声でにこやかに説明されるお顔が浮かぶ。
思えば我が家では食事には齋藤さんの大きな急須でどかっと番茶が出た。そして菓子を食べる時は煎茶だった気がする。父は煎茶の時に湯冷ましを使って自分の分だけ丁寧に出した。そして母や私たち子どもは出がらしに湯を注いで適当に飲んでいたように思う。そして父は気心あう人には惜しみなく湯飲みを上げた。
※齋藤さんは湯飲みと別に、煎茶専用の宝瓶や煎茶器揃えも作られています。
以上、齋藤さんと我が家ではなく、「齋藤さんの器と我が家」の趣になってしまいました。次は我が家を訪ねた齋藤さんを書いてみます。このたびは急須も予定していました。しかし分量が多くなりましたため、以後にさせて頂きます。色々と申し分けありません。
筒型で磁器。きっちり描いて高台が見えない。
太鼓型で陶器。呉須や鉄でラフな絵付け、高台と端反りがある。
裏面から。大きさ、高台、土の様子。
齋藤さんと我が家 2 セメダイン
前回は齋藤さんが我が家にもたらした灯のことを書いた。齋藤さんの器は父の手でせっせと運ばれるようになった。いつしか我が家の飯と汁碗以外ほとんどの食器は齋藤さんのものとなった。朝食のパンや果物は草模様が蝋抜きされた黒い鉄釉の皿に乗り、牛乳も鉄絵のマグカップだった。大きな手が付いたマグカップは民芸調の筆でムギワラ、草、文字など様々な文様が描かれていた。
蜂蜜が我が家のブームになった時に蓋が付いた灰釉の壺が登場した。この器の蓋は本当に滑らかで、開けるときは一瞬すっと吸い付くような感覚がした。やや地味だった器は蜂蜜ブームの後で梅干入れに変わった。
小さなものではつまようじ入れがある。普段のものは立てて入れる筒状の形で、呉須(藍色の顔料)でざくろが描かれていた。楊枝入れはもう一つあって、これは来客用だった。長方形の器に楊枝を横に置く物で色絵の蓋が付いていていた。この楊枝入れはとても可愛くきれいで、父の部屋の奥深くにあった。しかしいつしか紛失か破損かで失われ、非常に残念に思っている。
ところで食器は陶器が多い。陶器は磁器と異なり柔らかく暖かみがある。その分、欠けやすい。子ども5人を入れた7人家族のを、毎日出して使って洗って仕舞う母。手早に過ぎる母はしばしば器をカケさせた。父にはその都度「齋藤さんの器は壊れやすいから」と言い訳をした。よく母を叱る父だったが、あきらめたのか案外黙っていた。そして多くは、当時流行のセメダインで接着して再び使った。
次は齋藤さんの真骨頂とも言える湯飲みと急須にします。
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| 楊枝入れ(これにもセメダインが) | 蜂蜜や梅干しを入れた壺 |
齋藤三郎さんと我が家 1 灯り
するすると時は過ぎて間もなく3月、今年の開館が近づきました。旧年に増して樹下美術館が愛されますよう一同励みたいと思います。
ところで樹下美術館では倉石隆氏の絵画とともに齋藤三郎氏の陶芸作品を展示しています。今回は齋藤氏と我が家の思い出を書いてみます。思い出といっても私の小学生から高校時代くらいまでですが、お読み頂ければ有り難く思います。
齋藤三郎さんと我が家 1 灯り
昭和21年春、医師だった父は、母と4人の子どもを引き連れてかろうじて満州から引き揚げた。戦前、祖父の借金返済のために渡満し、再び無一文に戻っての帰国。実母のほか疎開で留まっていた何人かの父の兄弟も加わり、戻った実家は楽ではなかったようだ。翌冬の私たちのゴム長も母が工面した借金で買ったと聞いた。
まもなく、結核が得意だった父はわずかに残っていた田畑を売り払い、渋る銀行へ通ってレントゲンを買った。ようやく家に活気めいたものが漂いはじめたが、今度は診療の忙殺でトゲトゲしい緊張感が家を包んだ。父は険しく、母は硬かった。そんな我が家に突然のように明るさを引き連れて登場したのが齋藤三郎さんの器だった。
戦後まもなく齋藤氏は戦地満州から帰国し、兄・泰全和尚の寺がある新潟県高田市(現上越市)で作陶を始めた。昭和23年ころか、父はある若い結核患者さんの紹介で齋藤さんと出会ったらしい。そしてすぐ氏の作品に夢中になった。当初、小さかった自分にはよく分からなかったが、まもなく齋藤さんの作品が特別な意味を持っていることを知るようになった。
年に数回、窯出しのたびに父は汽車で高田へと向かった。そして夕刻、リュックサック一杯の作品を背負って帰って来た。皆の前で荷がほどかれると、新聞くずの中から皿、壺、湯飲みなどが次々と飛び出した。全ての器に絵付けが施されていて、花や文字の生き生きした文様は子ども心をも打つようになった。この時ばかりは、見たこともない笑顔が父に浮かび、母の声は華やいでいたのだ。
私たちでも頬ずりしたくなるような器の登場と両親の喜び。齋藤さんの作品は普段寒々としていた家に思いもよらぬ灯りをともすこととなった。
色絵色紙牡丹紋皿
恥ずかしながら続きます。
最終日
本日午後5時、新潟市における私のまちの美術館展が終了しました。まぎわまで来館者様は絶えず、企画の成功を実感しました。
色々お世話になった新潟県文化振興財団ならびに新潟日報社に深く感謝申し上げます。
正月来、描いてきたボタニカルアートのデンドロビュームはとうとう一ヶ月を越えてしまいました。何かと忙しくて遅れました。今夜は就寝前に茎に陰や枯れなど少し手を入れました。早くしないと花の変色が始まりそうです。前回に続いて今回はno7の掲載でしょうか。
同窓会から取材
私の高校の母校は新潟県立高田高等学校です。今日午後、年一回発行の同窓会機関誌「高高 校友会報」の取材を受けました。全8ページの最後に「校友を訪ねて」という記事があって次号の対象は小生ということでした。午後、編集を担当される事務局のお二人の先生とお一人の同級生の訪問を受けました。
現在、冬期休館中ですが、お茶を飲みながらお話させていただきました。ああ、こんな聞き上手な先生に習っている生徒たちは幸せだ、と思いました。同級のYさん、お会い出来てとても嬉しかったです。 同窓っていいですね。
明日は追い込み中の植物画を掲載したいと思います(恥ずかしい)。
わずかの晴れ間に
賑わい
15日から始まった新潟市の「私のまちの美術館展」は賑わっているようです。週末の好天にも恵まれました。今日は4日目ですが、会場に置いた300枚近い当館のリーフレットは午前で無くなったということでした。期間はあと10日。至急追加することにしました。来年も、という声がすでに来館者さんから出て、企画は成功しているようです。
嬉しいことですが、隔年くらいがベストかな、と思いました。
植物画・ボタニカルアートのデンドロビュームは、前回の彩色から少し進みました。花が頑張ってくれますので助かります。大切なモデルが枯れないように、一日に数回温水を出して蒸気を当てています。お風呂場という手もありましたが、、、。
気に入っている冬の海は、大荒れが続いたせいで砂浜なのに潮だまりが出来ていました。写真の左手奥には「天地人」の春日山城趾があるはずです。今日の兼続はまた泣いていましたね
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| かなり大変です | 邪道かな |
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| 潮だまり | |
初日
今日から新潟市で「私のまちの美術館展」が始まりました。夕刻、初日を見るために妻と県民会館へ向かいました。県内15施設から出展の会場には一種スリリングな雰囲気が漂っていました。
会場は3F。初めて見る作家や民族芸術に接することが出来、大変良い企画だと思いました。吹雪混じりの荒天。それでもかなり賑わったとスタッフから聞かされました。さすがに県都です。館内ロビーのインフォメーションコーナーも賑やかです。
樹下美術館のブースは晴々として、ある種求心力を発揮しているように見えました。陶齋三郎、倉石隆を展示できる幸せを感じました。当然ひいき目ですが、私たちが一番良かったとは、妻の感想です。
今回、大規模でなくとも個性的な美術館が多く参加されました。同様に小ぶりな当館には大きな励みでした。主催され、色々とお世話になった新潟県文化振興財団ならびに新潟日報社の方々に深く感謝申し上げます。
1月19(月),20日(火)は休館で、2月1日(日曜日)午後5時までです。
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| 熱心に観ていただいて | 有り難うございます。 |
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| 充実したインフォメーションコーナー | 会館入り口 |
大人組
昼の晴れ間が夕刻に一転、風雨がひどくなりました。そんな昼過ぎ、大阪から雑誌「大人組 kansai」の記者とカメラマンが取材に来られました。私たちには馴染みがありませんが、40代からの”大人”をターゲットにしたオール上質紙の情報誌ということです。関西を中心に月刊4万5千の部数を誇るとお聞きしていました。
次号(3月号)特集、「大人の一人旅」の取材で、初めて新潟県入りということ。メインは岩の原葡萄園で、当館はその立ち寄り先の設定です。サントリー系列である同葡萄園の名作ワイン「深雪花」のラベルを齋藤三郎が描いています。それで彼の作品を収蔵する当館を訪ねるというストーリーでした。
ところで、先月は新潟の「住まいnet」からカフェの特集で取材を受けました。続いてテレビ新潟の突撃取材。口コミ、たまたまなど、取材が増えているように感じられて喜んでいます。
一人旅、、、。これも美術館らしいイメージですね。このたびは久しぶりの関西弁と関西文化。既刊の写真がいずれも美しく、出来上がりが楽しみです。
大人組 kansaiの表紙
私のまちの美術館展・搬入
新潟県文化振興財団と新潟日報社の主催による「私のまちの美術館展」があさってから新潟県民会館で2月1日まで開催されます。作品の搬入日は今日、明日の二日。しばらく荒れ模様の天候予報です。明日はもっと荒れると困るので、私たちは今日搬入・展示作業をしました。
館内は広く、参加した15の美術館に1施設あたり約10メートルの壁面が与えられています。樹下美術館は早出のスタッフのお陰でスムースに絵画2点、陶芸5点を飾りました。ほとんどのブースはこれから作業のようでした。全館の準備完了で、会館スタッフが照明のセッティングをしてくれるそうです。
上越地域から私たちだけの参加で少し寂しい気がしました。まだ照明がなく平板な感じのブース。午後の診療がありますので、頑張れよと作品に声を掛け、急いで会場を後にしました。
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| リーフレットもしっかり置いて | 作業中の他館スタッフ達 |
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