齋藤さんと我が家 3 湯飲み 

2009年2月25日(水曜日)

 前回では父が我が家へ運んだ齋藤作品の多様さを記させて頂いた。ところで齋藤さんの作品で、最も多く作られたのは湯飲みだろう。小さくとも一器一器に才気と暖かさが現れ、齋藤世界そのものだ。ここでは形状について書いてみたい。

 

 齋藤さんの湯飲みの形状はおよそ二つに分けられる。ずんどうに近い筒型と、胴がふくらんだ太鼓型の二種である。筒型には高台が無く、中を削ってあるだけ。太鼓型は高台があり口辺(こうへん)が反る端反(はぞり)りが加えられている。前者の多くは磁器が主体であり、後者はほとんどが陶器だ。

 

 形のほかに絵付けの違いがあった。筒型は呉須(藍色顔料)による染め付けはじめ色絵も上品の気があった。一方、太鼓型は灰釉や鉄また辰砂(しんしゃ)を地色として、呉須や鉄でラフな文様が刺されていた。

 

 このような形状の違いは、番茶向きと煎茶向きへの配慮だったと思われる。煎茶は、温度が低く量は少な目だ。左手に乗せ右手で軽く握って飲む茶となる。番茶に比べて上格だから絵付けも染め付けなど細筆が合っている。

 

 一方番茶はくだけた飲みものであり、熱くて分量も多い。気楽に片手で握ってぐっと飲む。端反りがあるため一口で多く飲め、ここを持てば熱も避けられる。そして高台だが、番茶の高熱が卓の塗りなどに伝わらぬよう配慮されたのかもしれない。あるいは器に豪快さを与え番茶の趣を高めたのか。こうなると両者の違いを、齋藤さんに聞いてみたくなる。想像だが器を手に、立派な鼻に響く声でにこやかに説明されるお顔が浮かぶ。

 

 思えば我が家では食事には齋藤さんの大きな急須でどかっと番茶が出た。そして菓子を食べる時は煎茶だった気がする。父は煎茶の時に湯冷ましを使って自分の分だけ丁寧に出した。そして母や私たち子どもは出がらしに湯を注いで適当に飲んでいたように思う。そして父は気心あう人には惜しみなく湯飲みを上げた。

 

 ※齋藤さんは湯飲みと別に、煎茶専用の宝瓶や煎茶器揃えも作られています。

 

以上、齋藤さんと我が家ではなく、「齋藤さんの器と我が家」の趣になってしまいました。次は我が家を訪ねた齋藤さんを書いてみます。このたびは急須も予定していました。しかし分量が多くなりましたため、以後にさせて頂きます。色々と申し分けありません。

 


筒型で磁器。きっちり描いて高台が見えない。

 


太鼓型で陶器。呉須や鉄でラフな絵付け、高台と端反りがある。

 


裏面から。大きさ、高台、土の様子。

 

 

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