娘時代に勤しんだ機織り(はたおり)。

2016年9月9日(金曜日)

診療所に通ってこられる方からお若い頃の体験などをお聞きする
と思いがけない話に出会う事がよくある。

皆様から生い立ちや体験をを聴くようになったのは、10年数年前、
亡き母の晩年に、口癖だった昔話を面白いと思うようになってからだ
った。

高齢者の方たちは、家族から“同じ話ばかりする”と言ってよく疎ま
れる。
だがちゃんと聞いてみると、意外な出来事や体験が語られるので出
来れば上手く何度でもお聞きすることをお勧めしたい。

仕事中なので時間が少なく、何度かにわたってお聞きすることがあ
るが、このたびの方は一ヶ月後、再度伺った。

旧松代町から当地へお嫁に来られた85才の方で、機織りの話を
された。
祖母が嫁入りに持参した機織り機が家にあったことがきっかけだった。
祖母の機織りを見るのが好きだったが、早く亡くなられたという。
残された機械を見るにつけ、もったいないと思うようになり、10代中
頃から二年間十日町の講習所へ通った。

同所には機織りに関係している専業の家の娘さんばかりで、ゆかり
のない素人は自分だけだった。
最も難しく大切な技術に機結び(はたむすび)があった。
切れた絹糸を、織った後も分からないように小さく結ぶ方法で、これ
をまず習得させられた。

二年の講習後、実家でカイコを飼っていたのでマユから糸取りまで
行い、糸ヨリは十日町の業者さんに依頼した。
機織りは面白く、市松模様のふとんなども織ったが、主に絹で白布
を織り着物に仕立てた。
織り終わると、巡回して来る染め屋さんの見本帖を見て染色をお願
いした。
嫁に行くまで70反を織って着物に仕立てた。

 

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良ければ貰って下さいと言って持参された着物。

 

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細部を見た妻が、今では行われないような丁寧な仕立てだと言った。

思い出として、兄の婚礼の際、絹で背広を作って贈ったことや、後に
母に機を教えたが、自分が嫁に行った後も長く織っていた事が忘れ
られないと仰った。

これまで農作業、奉公、炭焼き、出稼ぎ、出兵など皆様から色々話
を聞いたが、機織りは初めてだった。
普段何気なく暮される皆様の昔話は自分の知らない世界が多く、
内容に「時代」「家族の温かさ」「その人らしさ」が感じられ、心打た
れる。

昔話は、要点をうまく質問したり、誘導した方がスムースで、概して内
容に気負いや飾り気が無いため、ある意味聞きやすい。
話を聞く前と後では、互いの親しさが増すことが実感され、仕事の面
でも有意義だと思っている。
また、このようなことは認知症の予防にも役立つようだ。

聴き方の一つとして、以前ほかの方からお聞きした似たような部分を織
り交ぜて伺うと、「よく知っていますね」などと言ってより詳しく話して頂
ける。

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