亡くなった人を思い出すこと。

2022年2月2日(水曜日)

あるところに小柄で色白でいつも静かなKさんが住んでいました。背が真っ直ぐ、銀色の髪にしっかりした眼差しの瞳はグレイでした。詳しくありませんがどこかロシア人を思わせる美しい人だなと思っていました。
その昔お会いした亡き旦那さんは男前で絵が上手な職人さんでした。
一人になった後、Kさんの静かな暮らしぶりには何かしら物語が秘められている印象を受けていましたが、立ち入って訊いたことはありませんでした。
80半ばになると彼女は施設に入り、受け持ちになりました。ある時期いっそう静かになっているのが気になりました。
そんな折、お茶のためにベッドから身を起こした所へ伺いました。
「どうですか、変わりありませんか」
「はい」
「そうですか。ところでKさんは親のことや亡くなった人のことを思い出すことがありますか」
「ありますよ、どうしてですか」と、瞳をこちらに向けました。
「あのね、亡くなった人たちのことを思い出すと、天国で眠っているその人は眼をさまして、すごく喜ぶんだって」
「本当ですか」
「そうらしいよ、思い出すだけで喜ぶんだって。青い鳥という本に書いてありましたから」
するとKさんはしばらくじっと私を見てから、
「ありがとうございます」、「ありがとうございます」と、何度も繰り返えし、白い手を差し出してきました。
思いがけない反応に驚き、出された手を触れるように握ったあと戸口へ向かうと、
「ありがとうございます」
後ろからまた声が聞こえました。

高齢者さんに亡くなった人を思い出しますか、と尋ねると「はあ?」という返事が多い中、Kさんの反応は珍しいことでした。
彼女はどんな人を思い出すのか分かりませんが、意外なほど話を喜んでくれました。
そのことで彼女は幸せな人だと思いました。
善し悪しに軽い波が見られる方でしたが急に眼に強さが戻ったように感じました。簡単なことなのでたまに似たような話をすることにしている次第です。

 


こちらはロシア民謡「黒い瞳」です。

 

昨日の父の話からKさんへ移りました。プライバシーのため設定などを変えています。

今日は五つも2が付く日でした。

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