樹下だより

今年の展示から2・「カリカチュア風な倉石隆」から。

2017年3月18日(土曜日)

去る3月15日、今年の絵画展示作品のご案内として
「カリカチュア風な倉石隆」から4点をご紹介しました。
本日は残り3点です。

26●
「詩人」 1964年 89,9×73,0㎝(高さ×横)
先回の「(人生)」に負けないカリカチュア風な作品で
す。
鼻、顔の輪郭、髪、首、そして目も随分と異様です。
モデルが実在したかどうか分かりませんが、詩人とい
うタイトルでこんな風に描かずにはいられない衝動が
あったのでしょう。
激しい感受性の持ちとして観る者のイマジネーション
をかき立てるインパクトがあり、作者らしいモノクロー
ムが効いています。

23●
「(さかな)」 1955-60年 24,2×33,3㎝
人物画中心の作者は時に風景やこのような生物も描
きました。
作品は生きている魚ではなく食べた焼き魚だったかも
知れません。そうだとしたしたら描きたいほど美味しか
ったのでしょう。
のどかな雰囲気ですが、いかがでしょうか。

61
「(鳥)」 1952年 24,5×39,3㎝
前者と全く異なりやかましい鳥を描いています。く
ちばしや羽ばたきなどカラスそのものです。
出身地高田にはカラスが沢山いました。故郷の水
田の作品にもカラスが描かれているものがありま
す。
上京してまだ数年、「めし」と同じころのものですが、
この鳥のようにばたばたとした自身の内面の焦躁
を描いたようにも思われます。

絵画の見方の一つでしょうが、その絵を描いている
時の作者を想像したり、描かれているのは作者自身
ではないか、と考えてみるのも面白いと思います。。

※作品タイトルのカッコ内のものは1995年の新潟市
美術館に於ける仮題として記されているものを引用
しました。

さて肌寒さが感じられるものの、庭のクリスマスロー
ズは競うように蕾から花へと変身中です。
早春の王女たちのようですが、中には一輪寂しそうに
しているものもあり、それはそれで気品が感じられます。

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皆様にお出かけ頂いていて花ともども喜んでいます。

今年の展示から1・「カリカチュア風な倉石隆」 スプリングソナタのSPレコード。 

2017年3月15日(水曜日)

今年の開館を迎えた本日、寒い一日でしたがおな
じみの方初めての方々にご来館頂き有り難うござ
いました。

開館に際し展示作品について簡単ですが説明を試
みたいと思います。

2017年絵画展示「カリカチュア風な倉石隆」

倉石隆は人物(人間)を描くことをライフワークとし
ました。
人間は生き物として共通部分をベースに、生まれ持
った個性と環境、経験など個人的な要素が加わった
複雑な存在です。
さらに人間を描く事は自分を描くことにもなろうと思わ
れ、いっそう困難もあったことでしょう。
氏は具象の画家でしたが、時に風刺画や戯画風の
表現で描きました。これらは一種カリカチュアと称さ
れる範疇でありましょう。
このたびは氏の作品からそのような雰囲気を有する
ものを選んで架けました。

●それでは会場左から

54
「(熱情)」 1987年 18,0×13,8㎝
身体の不自由を強い意思と感情が支えているお年
寄りを描いた小さな作品です。宝くじ売り場にいた人
に惹かれて描いたようだと、夫人からお聞きしました。
エゴン・シーレ風な荒々しいタッチで素早く描かれて
います。

E
「男の像」 1955-1960年 90,9×72,7㎝
大きな身体にごく小さな頭部が乗っています。顔は
悶々としていらだち、身体と手を持てあましている風
です。
上京したある期間、全く描けない時期があったそう
ですが、そんな日々の焦躁を描いたと思われます。
しかし薄い黄色にそこはかとない希望が感じられま
す。事実このように筆を執り始めたのですから。

19
「めし」 1953年 33,0×24,4㎝
前者よりも前の小さな作品です。
魚の骨だけの皿が粗末な食卓に乗っています。茶碗
とハシを差し出した男が「もっと!」と叫んでいます。
1950年に上京した倉石の当初、部屋には机の代わり
にリンゴ箱が一つという時代が続いたそうです。心身
ともに飢えていたに違いありまません。
いらいらする赤の下地を鎮めるようにグレーが乗せら
れています。

22●
「(人生)」 1957年 90,9×72,7㎝
やや大きな作品ですが、どんな事を描いているのでし
ょう。首から何かを下げた売り子のようにも見えます。
野球が好きだったという氏が球場でこのような人を見
かけたとも考えられます。
懸命に生きるほどに人生は時として醜さや滑稽さが滲
むのを経験します。
氏は大変にハンサムでしたが、内省の人らしく自らの
側面をこの人物に投影したように思われます。
本日、この絵がとても気に入った、欲しい、と仰ったお
客様がいました。

 

次回は倉石隆の残り三点を掲載してみようと思います。
※題名の( )は、1995年新潟市美術館の展覧会の際
に付けられた仮のタイトルです。

 

本日ベートーベンのヴァイオリンソナタ5番“スプリング
ソナタ”のSPをお客様が持参された。
蓄音機に乗せるとリリー・クラウスのピアノが明るくリー
ドしてカフェに流れ、居あわせたお客様とひと時を過ごし
た。
外が寒い名ばかりの早春の庭を見ながら聴いたレコ-ド
はとても優しかった。

だんだんと春 間もなく開館。

2017年3月10日(金曜日)

三月になって当地は何度か雪に降られた。
冬の終わりに沿岸中心に雪に見舞われることがあ
る。

この所降っては消えを繰り返し、除雪車が出動する
日もあった。庭のクリスマスローズも戸惑ったことだ
ろう。


1
↑去る8日、雪中で咲いていたクリスマスローズ。

2
本日雪が解けてわずかな日射しを浴びている。

3
↑8日、雪を払ってやった。

4
本日みなで顔を出している。

5 (2)
↑あちらでも。

6
↑こちらでも蕾が顔を出す。
あたかも間もなくの開館を知っているかのようだ。

6
そしてスタッフの畑から届いたトウ菜はおひたしに。

何でもそうかもしれないが、季節も色々あって段々
とそれらしくなってくる。

冬期休館は4日を残すだけとなりました。
新鮮な気持ちで迎えたいと思っています。

砂丘館とレクイエムの画家「塩﨑貞夫展」。

2017年3月9日(木曜日)

過日新潟市は西大畑界隈の事を記載させて頂いた。
その折同市には歴史的建造物を大切にし、今日的な
意味づけをして活用させる気運が感じられると記した。

同地に美術・文化施設「砂丘館」があるが、万事に疎い
自分はまだ訪れたことがない。
先日同館からご案内を頂き、観たいと思っていた「塩
崎貞夫展」の会期が間もなく終わる。是非とも連休の
どこかを使って出かけたい。

砂丘館
ただならぬ風格の砂丘館は旧日本銀行新潟支
店長宿舎。

塩崎氏展告知
「塩﨑夫展」の案内。2月15日~3月20の会期。
弔いと考えられる掲載作品は特別な日常である死
が意外な視点と構図で描かれている。
ここに至る過程に思いを馳せない訳にはいかない。

塩崎展
坂口安吾の桜に応答するまことにナイーブな
油彩作品「女人午睡」 121,8×96,3㎝。

1934年糸魚川市で生まれ、2014年に急逝され
た塩﨑氏はガブリエル・フォーレのレクイエムとの
出会いが、その後のテーマの原点になったという。
恥ずかしながら不肖自分はその昔、天から降るよ
うなフォーレのレクイエムに救われた事があった。

新潟市は川風、海風、松風と段丘が織りなす眺め
があいまってとてもさわやかだ。
生死がいっそう他人事ではなくなった昨今、砂丘館
を訪ね、塩﨑氏のレクイエムを観るのが楽しみだ。

雪が降り寒かった日 シェリーのクイーンアン。

2017年3月7日(火曜日)

昨日昼は暖かくスタッフと庭掃除をしたばかり。
それが本日朝から雪模様でとても寒く、在宅回り
はびしゃびしゃと雪を跳ねながら伺った。

_MG_2093
朝方潟町の庭に降る雪。

今年の開館まで一週間を残すばかりになりました。
この数年、毎春カフェでお出しする食器を追加して
きましたが、長く使用していたミントンのシノワズリが
傷んできたため替えることにしました。
今年は樹下美術館も満十周年、使ってみたいと思っ
ていたシェリー社のクイーンアンタイプのトリオをお
出しすることになりました。

_MG_2024
↑1930~40年はアールデコ調の形が魅力のクイーン
アンタイプのトリオ(カップ&ソーサーとケーキ皿)。
雪のように白く薄手のカップはあたかもお茶を包む形状
をしています。

皆様から長く愛されますように。

2017年の展示2 倉石隆作品は「カリカチュア風な倉石隆」。

2017年2月22日(水曜日)

来る3月15日開館に際しまして、本日は倉石隆の絵画展示
のお知らせです。
テーマは「カリカチュア風な倉石隆」です。
カリカチュアは風刺画、漫画、戯画などに相当する絵画ジャ
ンルです。
訓練されたデッサンに支えられた人物画を多く描いた倉石氏
ですが、中に強いデフォルメをほどこしたものや漫画的で滑
稽に見える作品が混じります。

このたびはそのような7点を選びました。可笑しさの中に対象
への愛おしみがにじみます。

17倉石氏告知ファイル

2017年の展示1.齋藤三郎(陶齋)の作品。

2017年2月21日(火曜日)

来る3月15日(水曜日)の今年の開館が近づきました。
ここへ来て寒い日が続いていますが、開館のころには
ぽつぽつと早春の趣が見られることでしょう。

今年の樹下美術館の展示は以下のようになりました。
齋藤三郎(陶齋)は「陶齋の色絵と鉄絵」
倉石隆はカリカチュア風な倉石隆
です。
本日は陶齋をお知らせ致します。

生涯絵付け陶器にこだわった陶齋は多様な表現を行いまし
た。最も人気だったのは色絵作品で、赤、緑、黄色、青など
の多色を用いて華やかに描きました。

一方単色で描く染付(そめつけ)と鉄絵(てつえ)も積極的に
制作しました。かって樹下美術館で「色絵と染附」展を行い
ましたが、この度二度目の「色絵と鉄絵」です。

鉄絵はモノクロームで地味ですが、その分変化やデザイン
性を活かして魅力的です。色絵と互いに引き立て合う展示に
なればと期待しています。どうかお楽しみ下さい。

 

 

陶齋展示ファイルブログ用

 

●お示ししたタイトルはかって同じ主旨で展示をしたことがありますが、
昨年~今年に収蔵した4点が相当しますため、今年再度開催する事
に致しました。

明日は倉石隆作品について掲載いたします。

間もなく開館の樹下美術館 カモメを見に再度柿崎へ。

2017年2月19日(日曜日)

お天気なのでどこか出ましょうという事で、美術館の庭を巡り、
田んぼを走り、柿崎海岸へといつものコースを回った。

170219美術館
カフェの前に雪が集中している本日の樹下美術館。

IMG_3023
何度かお伝えしているクリスマスローズ。
開館にうまく咲くようなタイミングのようです。

さて柿崎海岸です。
昨日カモメとウミネコおよびセグロカモメのことを書きました。
本日はそれを確かめてみようということで出かけた次第です。

オオセグロカモメ又はセグロカモメ
さっそく1羽が居ました。丸囲いのくちばしと足の様子からセグロ
カモメまたはオオセグロカモメのようでした。

くちばし
拡大した下のくちばし先端に赤い部分がある。

足
足が薄いピンク(肌色)。

ところで近くに居たグループはくちばしと足の色が上掲の個
体と異なっていました。

ウミネコ
翼の色は良く似ていましたが、くちばしと足に違いがあります。

ウミネコのくちばし
くちばし先端の上下に黒と赤の模様が見られる。
最初の鳥より眼(表情)が優しい印象。

ウミネコの足
足は薄黄色。
これらくちばし先端の赤黒模様、黄色の足から、この
グループは「ウミネコ」であると思われました。

前後二者の相違はわかりましたが、前者のくちばしと
足の特徴はセグロカモメとオオセグロカモメに共通して
いるという事です。
両者の区別は翼とくちばしの斑点の濃淡などで、オ
オセグロカモメの翼は黒に近いほど濃いといいます。

本日の鳥のグレーの翼はやや薄く感じられ、セグロカ
モメだったのかもしれません。

サイズはオオセグロカモメ、セグロカモメとも同じくらい、
ウミネコと「カモメ」はそれよりやや小さいということ。
今日は結局「カモメ」を見ることが出来ませんでした。
いずれ出会うことを楽しみにしたいと思います。

ことろでこのような事が何の役に立つのか、判然としま
せんが、認知症の予防?あるいは海へ行くことがより
楽しくなるのではないか、と思いました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて今年の開館まであと三週間ほどになり、思った通
りの早さで冬期休館が終わろうとしています。
今年の予定が決まっていますので、数日中にお知ら
せ出来る予定です。

かように呑気にさせて頂けるのは私的で小規模な施設
のお陰ではないか、と都合よく解釈致させて頂いている
次第です。(もたもたしていて大変申し分けありません)。

強い寒波が来るらしい 庭にクリスマスローズ ノスリに翼。

2017年2月9日(木曜日)

本日のニュースは明日以後の数日間に予想される強い寒
波を伝えていた。

既に西日本や近畿内陸の雪の映像は雪国のそれと全く同じ
だった。
「災害級」という言葉も使われていたが、そうならないことを
祈るばかりだ。

1
本日の樹下美術館。カフェの雪囲いの下にちょっぴり雪が残
っている。例年、常緑のトクサは雪による倒伏を避けて短くカット
しているが、今年はやや長めにしてみた。青々としていて気持ち
が良い眺めになっている。

2
落ち葉の中からクリスマスローズ-の蕾が四つ顔を出している。
落ち葉によく似ていますが、分かるでしょうか。

3
こちらのクリスマスローズには20ケも蕾が。あと一月ちょ
っとで開館、きっとこの花も見頃になっていることでしょう。

そして昼の農道でノスリが飛び立つ所に出会った。

IMG_2592
残念ながら足の部分がアングルから外れてしまいました。
翼長は1㍍を越えるでしょう、なんとも見事な翼です。

先日孫達と朝日池に行った折、間近に白鳥を見て一人が
鳥になってみたいと言った。
また本日宮城の弟が電話をしてきて、珍しく鳥の話をした。
鳥類、わけても渡りをするような大型の鳥には人を惹きつ
ける特別な存在感と迫力がある。

成長途上の樹下美術館。

2017年2月2日(木曜日)

樹下美術館は冬期休館中ですが、3月15日開館に向け
て鋭意準備を進めているところです。
美術館に最も必要なものは良き収蔵品。幸いな事に、開
館後も重要と考えられる作品が少しずつだが毎年追加
れてきました。

そんな折、今年になって思いもかけぬ齋藤三郎の良い作
品と次々に出会いました。
まず新年早々1月3日は染附竹文水指(そめつけたけもん
みずさし)でした。

1
↑手の込んだ竹笹文様の水指。 口径12,0×高さ17,2㎝
動きのある竹が呉須の藍一色で生き生きと描かれた染附作
品。
ぐいとした竹の線、リズミカルな笹の緩急がやや小ぶりな器
一面を埋め尽くし、風の音さえ聞こえそうです。

2
↑上掲作品の底署名。文字が太く力感があり昭和30年代
から40年にかかる署名ではないかと推定しました。

3
↑「色絵椿文鉢」。1月中旬の出会い。  幅21,2 ×高さ8,2㎝。
陶齋の椿は時代ごとに変化をします。私が特に好き
なのは伸びやかな花びらの昭和20年代中、後半のもので
す。
この椿はその前、花の描き方に試行錯誤をしていた頃では
ないかと思われました。
当時陶齋は時々我が家を尋ねましたが、どんな椿が一番良
いでしょう、とよく父と話していました(私は氏がこられると、
出来るだけ両親のそばで話を聞いていました)。
この作品の花、葉、枝とも色彩はその後のものよりやや地
味目ですが、深みがあり動きも良く花の喜びが伝わります。
さらに鉄釉による縁取りがきりっと全体を引き締めています。

4
↑上掲作品の四隅に黄色を配し緑で枠どりをした署名。
細い筆先が縦横に走る高田時代初期のサイン。

5
↑「赤地搔き落としあざみ文瓶」 高さ13,7×口径7,0㎝
魅力的で小ぶりなこの器はつい先日やってきました。

6
↑作品の署名。やや単純化されてますが、速筆で昭
和20年代後半と推定された。

この小さな器には物語があります。
父の開業から長く診療所を手伝って下さった人でYさ
んがいました。
仕事は迅速で正確、字は美しく応対ははきはきとして
明るく長く私たちも親しみました。

ご都合によりお止めになってから相当経ちますが、ワ
クチンの時など今でもお元気な顔を出されます。
先日の来院時“自分が止める時に大先生から頂いた
齋藤さんの壺があります。自分も年だし、先生が美術
館をされたのでお返ししたいと思っていました”と仰っ
た。

父は色々な方に陶齋作品を上げていた。
一緒にお茶をのみ、この茶碗いいですね、などと言
う人あれば、「分かるかね、欲しければあげるよ」と
新聞紙に包んで渡すのだった。

ところで今回Yさんが持参された作品を見て驚いた。
小器ながら絶品である。
まず赤い搔き落としのあざみは初めてだった。
搔き落としの鮮やかな手さばき、花の風情、余白の妙、
引き締まったフォルム、心に残る赤、漂う上品さ、きれ
いな焼き上がり、、、。
父はよほどYさんに深い思いがあったのだろう。

Yさん、こんなに良い作品を本当に有り難うございま
す、一生懸命大切に致します。

「次は何」
これは齋藤三郎さんの作品を待つ私たちの気持ちだ
った。
それは最早愛情に似ていた。
そして次に見る作品は決して期待を裏切ることなく皆
を驚かせ、喜ばせた。

没後35年を経た現在もまだ「次は何」、齋藤三郎さん
への愛情(ないし病)は続いているのです。

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